真剣に生きる


旅が楽しいとは限らない
なのになぜ、君は旅に出るのか
思い出が心地よいとも限らない
なのになぜ、辛い思い出を捨てないのか 
傷つくのも人生と、君はいつも言うけれど
傷つく前にやめてはいけないのか
楽しいことだけ追いかけて
面白おかしく生きてはいけないのか
もっとうまく生きてはいけないのか

苦しみから目をそらし
手軽な楽しみで一時をしのぎ
軽躁の日々を送ったとて
それが何になるというのだ
過去を経ずして現在がないように
今日を飛び越して明日に進むことはできない
今日が明日を作るのだ
それなのに君は
今日一日、ただ自分をごまかして生きようというのか

今日というこの一日は
流れゆく大河から汲み取る一杯の水のようなもの
よほど大事に扱わないと
瞬時にして流れ去り
下流の水に混じって分からなくなってしまう
今日をただの過去にしないために
敢えて見えるものすべてに目を向けよう
敢えて聞こえるものすべてに耳を傾けよう

今日を大切にしよう
今、このときを大事にしよう
下駄ばきで登れる山に登ったとて
その経験が明日を輝かせてくれるか
膝の深さで泳いだとて
それが明日を輝かせる思い出になるか
登るなら高い山へ
潜るなら深い海に

また、旅に出よう
荒れたこの地の向こうには
きっと緑の丘がある
凍てつく山河の向こうにも
きっと陽のさす明日がある

             
※ 1992年3月、勤務先の学校新聞に載せたものです。
    
 
『長恨歌』再読  忘れ得ぬ人 
       
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