この言葉、なんとかなりませんか(10)

 

〇○させて頂きます
 

 高石早苗総務大臣が、自身の発言をジャーナリストが批判していることについて野党から追及され、「色々な意見があるのだなあと感じさせて頂いた」と述べたそうだ。【2016/3/2 朝日新聞)
 なんたる日本語であろう。
 させて頂く、とは相手や周囲の許し或いは同意を得て自分が何かをさせてもらうことを意味する。つまり意図的な動作について使う言葉だ。
 自分の意図とは関係ない、たとえば物を食べて美味しいと感じるようなことは、別に相手の許可も同意も不要であるから「美味しいと感じた」でよい。それを「美味しいと感じさせて頂いた」などと言ったら噴飯ものだ。
 暑い、寒い、嬉しい、悲しいといった感覚や感情は、相手の許可のもとに感じたり浸ったりするものではないから、「頂く」というのは滑稽というより、間違っている。

 最近、この「〇〇させて頂く」という言い回しが蔓延していて、どうにも気に入らない。
 意見を述べさせて頂く、などはまあそういう場を与えてもらったり、議長の許可を得たりして発言するのだから、いささか馬鹿丁寧とはいえ、大きく間違っているとは言えないだろう。
 だが、何かを大勢に知ってもらうために“発表”するときなど、「それでは発表させて頂きます」というのはおかしなものだ。それを聞くために集まっている人たちにしてみれば、別に同意も許可も与える必要などなく、むしろ、さっさと発表してくれよという気分に違いない。それを勿体ぶって「させて頂く」と言うのは、とりあえず丁寧に言っておけば無難だろうという保身以外の何物でもない。
 この「とりあえず」という安全策が蔓延してくると、いつしか発言者は必要以上に用心深くなり、「そう思ってございます」などという珍妙な日本語や、「させて頂く」というような主体のはっきりしない言い回しが出てきたりする。
 
 そもそも「させる」という言葉は使役動詞であって、AがBにある行動をとらせる、或いはするように仕向ける、AがBの行動を許す、黙認する、といった場合に使うものであろう。
 だから、AがBにスポーツをさせるという場合、「させる」の主語は当然Aである。
 とすると、先の例で「発表させていただく」というとき、発表するのは私であるから、当然主語は私であり、頂くの主語も私である。それを「発表させる」といった場合、主語は誰になるのか?
 「発表する」なら分かり易い。私が主語で「する」が述語である。
 「発表させる」も分かり易い。私が主語で「させる」が述語である。
 「発表して頂く」もいいだろう。私が主語で「頂く」が述語。発表するのは私以外の者ということになる。
 むろん、相手に許可を求めて発表するという場合には「発表させて頂く」と言うことができないわけではない。その場合はまず「発表させてください」と頼み、相手が(私に)「発表させてくれる」となって、初めて「発表させてもらう」ことになる。丁寧に言えば「発表させて頂く」だ。

 くどくなるが、もう一度言おう。
 自分が誰かの物、たとえば道具としての金槌を使いたいと思ったら、その持ち主(A)が自分(私-B)にその道具を使わせてくれるように頼む必要がある。
 その場合には、「(私に)あなたの金槌を使わせてください」というのが最も単刀直入で分かり易い。
 とはいえ、相手と自分との上下関係を鑑みて、それではあまりに不躾だと思える場合もあるだろう。そんなときは「あなたの金槌を使わせてくれますか?」と相手の意思を尋ねる言い方が便利だ。
 そして、相手が許可の返事をくれたときに初めて「使わせてもらう、使わせて頂く」ということになる。
 それを相手の許可を得ぬまま「使わせてもらう、使わせて頂く」と言ったのでは、なんという図々しい奴だ、ということになってしまう。
 つまり、「それでは発表させて頂きます」などと言うのは、本人は丁寧に遜って言ったつもりでも、用法としては勝手極まる言い方だということになる。
 でもそういう言い方も聞いたことがある、と言いたい向きもあるだろう。そう、その勝手な言い方、実際に使われる例がないではない。
 いささか品のない例ではあるが、女に金を貸している男が、返済の猶予を懇願する女に向かって「それじゃあ、お前の体で払ってもらうぜ」などと迫る話。あるいはごく親しい間柄で友人などの家を訪ねた者が、「いるかい? 上がらせてもらうよ」と無許可のまま家に上がり込む話。いずれも圧倒的に優位な立場、あるいは許可など不要なほど対等な立場の者が使う言い回しだ。
 集まった人(客)たちに何かを伝える場合に使うものではない。


 「新商品を発売させて頂きます」
 「こちらのプランをお勧めさせて頂きます」
 というのは、発売させてもらうぜ、勧めさせてもらうぜ、というように相手の意向などお構いなしといった高圧的な物言いを単に丁寧語で言っただけのことで、どう考えても場に相応しい言い方ではない。
 「お詫びをさせて頂きます」というのを聞いたことがあるが、お詫びをするのに相手の許可を得たとでも言うのか。
 「ご説明させて頂きます」「ご案内させていただきます」というのもよく聞く。説明や案内をするのに「ご迷惑とは思いますが、ご説明してよろしいでしょうか?」「申し訳ありませんが、お部屋までご案内させて頂けませんでしょうか?」というように、相手の許可を求める必要があるのだろうか。
 「急な雨でお困りのお客様には、(当店の)傘をお貸しさせて頂きます」などと言うに及んではもう、何をかいわんやである。
 母堂を御母堂、尊父を御尊父、逝去を御逝去、さらに御母堂様、御尊父様というように、二重三重に言葉を飾っておけば無難だという風潮の中で、とりあえず丁寧な言葉を使っておけば安全だという姑息な考えはそろそろやめて、「発表します」というシンプルで正確な言い方を心がけてもらいたいものである。
 

いつもでない一日を 等身大でいいのか
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