もれなく取って、あわよくば返さず


税務署の正体見たり確定申告



 とりあえず多めに取っておいて、あとで返す。税金の取り方である。
 取るのは漏れなく、返すのは言われたときだけ。国税庁のやり方である。
 各人が1年間にどれだけの収入があるのか、正確には予想できないから仕方がない。確かにそうではあるが、それなら少な目に取っておいて、不足分は収入が確定してから追徴しても理屈は同じである。
 しかし、そんなことはない。年度の途中で急に大金が入ったというようなことがない限り、翌年になって「取り過ぎた分を返す」というのが普通である。
 サラリーマンは、年末調整とやらで少しばかり返ってくると、それを喜んで飲みに行ったりする。むろん私もそうで、40年以上も税金を天引きされていて、不足分を追徴されたことは1度もない。
 つまり、ずっと「とりあえず多めに」取られていたのである。
 これは言いかえれば、差額分を無利子で国に貸していたということになる。
 どこのどの商人だって、客から高めに代金を取っておいて翌年に差額を返すなどという不届きなことはしない。
 国は平気でそれをやる。しかも申告という名の「お願い」をしない者には返さない。申告時期を前に国民が死んでくれれば、国はしめしめとばかりそれをネコババしてしまう。

 年金生活をするようになって、「確定申告」という作業が必要になった。
 私は漠然と、確定申告というのは事業者がするものだと思っていたし、年金は税金を引かれた残りが支給されているのだから申告もへちまもあるまいと思って放っておいた。
 すると知人に諭された。しなければ取られっ放しになるという。
 取られるといったって、年金の額は確定しているのだから、税金も正確に取られているのだろうと言うと、いやいや甘い、申告しなければいくつかの控除分を放棄することになり、税務署を喜ばせるだけだと笑われた。
 なんだかよく分からなかったが、返ってくる税金をみすみす国に取られるというのも癪なので、「確定申告会場」とかいう所に出かけていった。
「パソコンはできますか」
 いきなりそう聞かれた。
「ええ、まあ」
 そう答えると、ではこちらへとパソコンの前に案内された。
「ここに入力してください」
 1人残された私は途方に暮れた。
 確かに入力欄ははっきりしており、そこに打ち込めばいいのだが、何を入れたらいいのかが分からない。
 収入の欄は年金しかないから簡単なようだが、それだって年金の総額を入れるのか、税金を引かれた後の金額を入れるのか分からない。係を呼んで聞く。
 次に「所得から差し引かれる金額」というのがあり、その中にナントカ控除という欄がいくつもある。それらが自分に該当するのかどうかが分からないから、係を呼んで一つ一つ聞く。
 なんとか入力したが、手元にある領収書類を見ると共済掛金のものが残っている。
 私は退職後すぐに国民年金に切り替えず、それまでの共済年金を“任意継続”して2年間掛金を払っていた。それは控除の対象になるのか。なるとすればどの項目に入るのか。またぞろ係に聞く。
 別に生命保険料控除というのがあり、それならばと、入っている生命保険を次々と入力した。どれも葬式を出したら消えてしまうような少額であるが、掛金を全部足せばそこそこの金額にはなる。
 入力ごとに合計欄の金額が自動的に増えていくので、張り切って入れた。そして最後に入力完了のボタンをクリック。
 すると、あろうことか先ほどまでの合計金額が「50,000」と変わってしまった。いくら足しても、上限が5万円なのだという。それならなにもいちいち入力しなくても、1つだけ入れればそれでもう5万円は超えている。がっかりして作業を終える。

 そんなこんなで申告を終えたのが去年のこと。今年は国税庁からハガキがきた。
「年金の額が400万円以下である場合は確定申告をする必要がなくなった、ただし、してもよいし、しなければならない場合もある」
 と書かれている。
 これではどうしていいか分からない。
 年金はもちろん400万円以下であるが、「必要な場合もある」と言われては、自分がその「場合」にあたるのかどうか分からないのだ。
 あれこれ調べてみると、還付を受けたいなら申告しろ、ということのようだ。
「しなくていいが、してもいい」というのは、しなくても返ってくるのではなく、「すれば返してやるけど、しなければ返さないよ」という意味なのだ。
 なんというあこぎなやり方であろう。
 多めにむしり取っておいて、「返してもらいたかったら申告しろ。要らなかったら申告しなくてもいい」というのだから、ガキ大将が小さな子からビー玉をまき上げておいて、「返してもらいたかったら頭を下げろ。下げなければ返さない」と言っているのと同じではないか。
 税務署は、そういう犯罪ともいえる方法で庶民のカネを取り上げておいて、返さなかったのは納税者から申告(請求)がなかったからだ、つまり納税者が権利を放棄したのだからこちらの責任ではない、と言い逃れるつもりなのか。
 その伝でいけば、納税者である老人が2月の申告受付前に死んでくれたら国は大喜びということになる。
 
 私の場合は収入が年金しかない。それは年金機構によって円単位まで把握され、ちゃんと税金や介護保険料を差し引かれて支給されている。だから今さら確定申告などしたって額に変更があるわけではなく、還付につながるものではない。扶養家族は妻だけだから、扶養控除もない。頼みの生命保険料控除は前述のとおり5万円しか認められないから、還付などないに等しい。
 申告会場で待たされる時間を考えたら、申告しない方がどれだけ楽か。
 そうは思うし、同じ思いから申告しない人が無数にいるとも思う。しかし、それこそ税務署のねらいであることを思うと、そのあこぎなやり方には少しでも抵抗したい。

 そう思って改めてそのハガキを見ると、「e-Tax」という方法を勧める記述があった。インターネットで確定申告ができるというのである。
 その利点として、①領収書や源泉徴収票などの添付書類が不要、②還付がスピーディに行われる、③24時間受け付け、④郵送代がかからない、⑤申告会場に出向く手間が省ける、などとあるが、どれもたいした利点とも思えない。
 そんな、とるに足らない利点を並べ立てて申告者をe-Taxに誘い込もうとするのは何故か。
 まあ、申告期間は1か月であり、全申告をその間に処理するとなると税務署員は連日残業を続けることになるであろうから、それを軽減するためにはインターネットでの自動処理はいいことに違いない。
 それならそう言えばいいものを、あれこれ恩着せがましいことばかりを並べるところがいかにもお役所だ。
 ただ、e-Taxを使えば還付金に4千円がプラスされるとあり、これはちょっといいなと思った。
 ところがよく見ると、この4千円は1回だけであり、来年またe-Taxにしたからといって、また4千円くるわけではない。つまり、申告者をe-Taxに誘い込むための餌であり、それに釣られた者には次回から餌をやらない。文字通り「釣った魚に餌はやらない」というあざとい手管である。
 ではあるが、申告しない人への還付金をネコババしようという国税局に少しでも抵抗するためには、私のようにほとんど還付金などないような人間がいちいち申告して、たとえ1円でもネコババを邪魔するしかない。
 そう思い定めて、私もe-Taxで申告することにした。

 ところが、これが思いのほか面倒であった。
 まず、住民基本台帳カードを作る必要がある。写真を用意して市役所に行った。
 しばらくして窓口に呼ばれた。係の手に出来上がったばかりのカードがある。そのまま渡されるのかと思ったら、キーボードを出され、運転免許証の暗証番号を打ち込めと言われる。
 え?
 そんなものがあるのかと聞くと、ICチップ入りの免許証には暗証番号がついているとの答え。そう言えば数年前に更新したとき、新しい免許証には本籍が書かれておらず、読み取り機にかけて8桁の暗証番号を入力すれば本籍が浮き上がって見えるということだった。
 自分の本籍地を読み取る必要などないから、その場かぎりの数字を並べたと思う。むろん覚えていない。
 免許証に限らず、パソコンに各種のソフトをインストールしたり通販の代金を払い込んだりするにはパスワードが必要な場合が多く、私もそれぞれのパスワードを持っている。たいていは1回きりの利用だと思って、その場かぎりのいい加減な英数字を並べているので、これも覚えていない。
 仕方がないので、当てずっぽうに04505963(おしごとごくろうさん)と入れてみた。何かのパスワードとして使った覚えがあったからだ。
 係が「違っているようです。認証されません」と言う。
 それではと思って、31565656(サイコロコロコロ)と入れた。これもダメ。
 係が「もう一度間違えるとカードが無効になります」と言う。
 そうなったらどうするのかと聞くと、カードの再発行願いを出してもらい、新しいカードを作りますとのこと。それは面倒だ。
 しかし、どうしようもないので、一か八か、16263646(一郎二郎三郎四郎)と打った。
「はい、認証されました」
 やれやれ。
 すると今度は、そのカードを使うための暗証番号を決めるようにと言われる。
 まずカードそのものの番号、次に住民票の写しを取るための番号、印鑑登録証明書を取るための番号、戸籍証明をとるための番号をそれぞれ決めろという。すべて4桁だが、戸籍証明用の番号だけはご丁寧に4桁のものを2つ作るのだそうな。
 そんなに作ったって覚えられるわけはないから、全部私の誕生日にしてしまった。
 かくして住基カードは手に入ったが、それだけではe-Taxは使えない。カードに電子証明書を組み込んでもらう必要がある。ここでまた8桁の暗証番号が必要だと言われ、誕生日を2回続けて8桁にした。
 やっと終わったと思ったら、500円だという。なんだ、e-Taxなら4千円プラスされると言ったって、そのために500円かかるのか。しかも電子証明書の有効期間は3年ということなので、3年後の確定申告ではまた500円かかることになる。4千円は1回だけなので、24回申告すれば4千円はゼロになる。まあ、24年生きるわけもないが、理屈としては25年目からは持ち出しになる。

 こんなことだったら申告会場に行った方が楽だったなと思いながら、パソコンに向かう。
 e-Taxでの申告をするページに進むと、「初めて利用する方」とあるのでそこをクリック。「手続きの流れ」とあり、まず事前準備のコーナー。電子証明書をパソコンに登録するなどいくつかの作業があり、作成コーナーへ。
 そこでまたいくつかの作業をすると、「ブラウザのポップアップがブロックされています」ときた。
 ポップアップとは何であるか、私は知らない。知らないが、解除しなければ先へ進めないので、でたらめにあれこれ試して解除した。
 その後も画面の指示で進んでいくと、「①はじめてe-Taxを行う方(利用者識別番号をお持ちでない方)」とあり、「はじめてe-Taxを行う方はこちらをお選びください」と書いてある。
 利用者識別番号は持っているので、変だなとは思ったが、とにかく「こちらをお選びください」とあるのだからそれに従うしかあるまい。
 それを選び、またいろいろ入力。すると「利用者識別番号を新しく作っていいか」という確認がある。新しく作るとこれまでの識別番号は使えなくなり、登録されている諸情報は読み取れなくなる、と注意書きがある。
 そんな馬鹿な。折角持っている番号を変える必要はないし、また最初からいろんな情報を打ち込むのはしんどい。
 そこで少し戻ると、さきほどの画面に「②e-Taxを行ったことがある方(利用者識別番号をお持ちの方)」というボタンがあった。
 しかし私は初めてe-Taxを使うのだから、それには該当しない。そもそも①の「はじめてe-Taxを行う方」というのも、(識別番号をお持ちでない方)と書かれているのだから、私は該当しないのだ。
 選択肢はそれだけで、私のように「番号を持っていて、初めて」という者には該当するボタンがない。

 途方に暮れて、ヘルプデスクという所に電話をした。
 最初に「この電話は20秒ごとに10円かかります」というアナウンスがあり、続いて「ただいま電話が大変混んでいます。順番にお繋ぎしますので、そのままお待ちください」というアナウンス。それは予想したことなので、そのまま待つ。ときどき同じアナウンスがあり、忍耐強く待っていると30分を超えてしまった。
 30分ということは1,800秒、つまり900円である。電子証明書の500円と合わせて1,400円。例の4千円がますます目減りする。
 やっと繋がったので前述の点を質問すると、②を選んでくださいという返事。いや私は初めてなので②には該当しないのだが、と言うと、「いいです」との返事。
 いいです、とはまた異なこと。間違った指示をしているのはそちらではないか。「いいです」などと許可でも与えるような物言いはどういうことなのか。

 不愉快な気分で次へ進む。
 その後も四苦八苦しながらいろいろ打ち込み、そろそろ終わりかなと思うころ、カードリーダーが住基カード内の電子証明書を読み込めないという表示が出た。そういえば家電量販店で「公的個人認証ナントカ」と書かれたカードリーダーを見た気がする。
 なんだ、手持ちのカードリーダーではダメなのか。そう思ってパソコンの画面はそのままにして家電店に走った。2,380円。
 これで今回の費用は3,780円。4千円まであと220円だ。そのくらい、市役所や家電店へのガソリン代で飛んでいるだろう。
 いや、考えてみれば、住基カードを作るために1,400円払って写真を撮っている。合計で5,180円。餌の4千円はとっくに無くなっている。
 
 フーフー言いながらまたパソコンに向かう。
 結果的に出てきた表示は、一連の作業に時間がかかり過ぎたのでこの申告は無効です、というものだった。
 電話の待ち時間だけで30分以上、家電店への往復で30分以上。入力に手間取った時間はどれくらいか分からないが、全部で何分以内に作業を終えよというようなことはどこにも書いてない。だからどの段階で制限時間を超えたのかも分からない。
 天を仰いでまた最初からやり直す。

 そうして終わった確定申告。戻ってきた税金は、あの有難い4千円を含めて9,960円であった。なんともはや、くたびれ儲けな話である。
 つくづく税金というものに腹が立つ。いや、税金そのものは必要なものであり、相応の負担は当然なのだが、税のしくみが腹立たしいのだ。
 まず、国は取り易い所から取る。
 富の再配分という概念からすれば、所得税の累進性が一番合理的なのだが、それは額がまとまるだけに豊かな者(社会的強者)からの抵抗が大きい。
 その抵抗にひるんだ国は累進率をどんどん下げ、富者がますます富む税制を作り上げてきた。そしてその分を貧者から広くむしり取る方法を進めてきた。
 所得税のような直接税はモノを受け取る対価として払うわけではないから、いかにも“取取られた”という感じがする。その点間接税はサービスなり商品を受け取ったときに払うものだから、税を取られたという認識がやや希薄になる。建前としても税を払うのはサービスや商品を売った者ということになっているから、買う人間は錯覚を起こし、負担感がますます薄くなる。
 そこに目をつけたのが消費税だ。
 本来モノを買うということは自分のカネを失うということ。富を得たら税金を払うという税本来の概念からすれば、支出をした段階で税を軽減してもらっても不思議ではない筈である。
 それなのに、ものを買ったら税金を払えとはいったいどういうことか。貧者は一つのものを買うのにも血の滲むような苦労をしている。そしてやっと買ったら税金だ。
 爪に火を灯すようにしてお金を貯め、やっと10万円の品物を買ったら5千円取られる。年収500万円の人にとって5千円は年収の0.1%だ。同じものを年収5千万円の人が買ったら、税金は年収の0.01%。つまり同じものを買って同じ税金を払っているようでも、貧者にとっては富者の10倍の負担なのだ。
 1個何十万円もする腕時計など買った人から税金をというならまだしも、値段を見比べながら小松菜1束をやっと買った人に「ハイ、5%」と税金を課すというのは、江戸時代の悪代官もかくやという手法ではないか。
 昔、ロシアのピョートル大帝は帽子や西瓜にまで税を課して民衆の反発を買い、ドン・コサックの反乱や農民一揆を招いたというが、そんなのは今の日本に比べれば可愛いものだ。日本では帽子どころか、モヤシや鰯にまで税金がかかる。
 消費税ではないが、孝行息子が夜昼働いて親を温泉に連れて行けば「入湯税」を取られる。つまり孝行税である。日本の国はたまの親孝行までも税金の対象にしている国なのだ。
 また、晩酌はあくせく働く庶民のせめてもの楽しみだが、国は酒税という形でその楽しみに負担を課す。苦肉の策から税率の低い発泡酒というものが生まれ、私などもこれは有難いと飛びついたものだが、そういう庶民のささやかな自衛策にも国は目をつけ、たちまち発泡酒の税率を上げた。
 その他、弱い者いじめの間接税を挙げていったらきりがないが、もう一つ私が気にくわないのが、冒頭に述べた、取っては返す税のしくみである。
 例えば介護保険料というのがある。私は年間6万5千円ほどの介護保険料を払っている。そしてそれは確定申告の際、控除の対象になる。ということは、6万5千円のうちいくらかが返ってくるということだ。
 だったらその分、最初から保険料そのものを安くすれば申告だの返金だのという手数はいらなくなるではないか。
 それをしない理由は2つしか考えられない。
 1つは、そういう二重手間をかけることにより税務署員の雇用を確保しているということだ。介護保険に限らず、取っては返す税金の種類は多岐にわたるが、その作業の総量は国全体では膨大なものになり、それだけ税務署員の数が必要になる。自分たちの仕事をわざと複雑にして、取ったり返したりしていれば雇用を守れるという、まことに都合のいいしくみなのだ。
 もう1つは、面倒だといって確定申告をしない人の分を国がネコババできるということだ。先述のとおり私の還付金は9,960円。それを得るために使った費用ははっきりしているだけで5,180円。来年もやろうという気にはならない。
 馬鹿々々しいといって申告しない人、面倒だったり申告のし方が分からないなどで諦める人。それらの「放棄された還付金」は国全体で見れば大変な金額になるであろう。
 根負けしたとき、私は負け。国はニンマリ。
 たとえ根負けしなくても、最後の年は私が死んでしまうわけだから国は死者の還付金を横取りできる。

 確定申告という、多くの人にとって面倒で分かりにくい作業。終わって徒労感ばかりが残った一日であったが、税務署の正体が見えたという意味では、無駄ではなかったのかも知れない。
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