情けない「○○甲子園」
秋葉原で「第１回フラガールズ甲子園」というのが開かれたという新聞記事に目が止まった。早速 YouTube で動画を見たが、やはりおばさん達のフラダンスと違って、溌剌としている。
もともと３月に福島県いわき市での開催が予定されていたのだが、東日本大震災で実施できず、５カ月以上遅れて秋葉原で行われたのだという。物産販売や義援金募集もあり、東北復興の一助とするということで意義も大きいが、それはそれとして、第２回からはやはりいわき市で開催したいとのこと。
そのいわき市は、日本におけるフラダンス発祥の地と言われている。
石油エネルギーの拡大によって衰退の一途をたどっていた常磐炭鉱が閉山の危機を迎えたとき、町の存亡をかけてオープンした常磐ハワイアンセンター。
地元の、いわば田舎娘たちが初めてのフラダンスに取り組む姿を描いた映画『フラガール』は大成功をおさめ、いわき市はその名を全国に知られることになった。
センター開設当時の地名「常磐市」が「い・わ・き」という意味の解らぬ平仮名になり、施設の名も「スパリゾート・ハワイアンズ」などという温かみに欠ける名に変わってしまったが、「フラガール」というなんとも野暮ったい呼び方に、ほのぼのとした情感を抱く人は多かろう。
だから、そのいわき市に全国の高校生たちが集い、フラダンスを踊るという企画はまことに結構だと思う。
さて、その折角の大会をなぜ「甲子園」というのか。
全国の高校球児は「甲子園」を合言葉に、厳しい練習を続けている。それは全国高等学校野球選手権大会が甲子園球場で行われるからであり、文字通り「甲子園に行く」のが夢だからである。
それならば、全国の高校生が日本におけるフラダンス発祥の地で技を競うというのなら、「フラガールズ常磐大会」とでも言うのが理屈に合っているのではないか。「フラガールズいわき」でもいいし、「フラガールズ湯本」でもいい。いわき市にもフラダンスにも何の関係もない西宮市の野球場の名では、全国から福島への思いが募らない。
全国の高校生たちが「いわき」を合言葉に練習を続け、いわきを目指し、いわきに集う。それでこそフラガールズ発祥の地というステータスが生き、「いわき市」が全国フラガールたちの“目標”の地として輝くことになろうというものではないか。
むろん、私とて「甲子園」という言葉が「全国大会」という意味で使われている風潮を知らぬわけではない。前々から「ダンス甲子園」だの「まんが甲子園」だのという言い方があることも知っている。それどころか、今回改めてインターネットで調べてみると、プラモデル甲子園だとかケータイ甲子園だとかいったものも含め、ざっと２０数件の「○○甲子園」が出てきた。
これはとりもなおさず、どの大会企画者も、大会の由来やアイデンティティーよりも甲子園の知名度にあやかろうというさもしい根性しか持っていないということで、情けない限りである。
実は私がこのようなことを言うのは今回が初めてではない。
昨年８月に朝日新聞の「声」欄に投稿して幸い掲載された一文がそれで、私としては自説が有力紙で紹介されたことにまんざらでもない気分を味わっていた。
しかし、わずか６００字の拙文に目を止めてくれる人は少ないし、まして賛同して声を上げてくれる人は皆無だったのであろう。その後も「○○甲子園」という文言は巷に溢れ続けている。
そこへもってきて今回の「フラガールズ甲子園」。
ブルータス、お前もか！ の感は拭えない。
福島には福島にしかない良さがある。私も何度も行って、福島のほのぼのとした風土に強く惹かれている。
ここはひとつ、甲子園などという７００キロも離れた野球場の名前などに頼らないで、「福島」「いわき」を前面に押し出した誇りある名称での大会に育ててもらいたものだと思うがどうだろうか。
付：平成２２年８月２０日朝日新聞「声」欄
高校野球と花火大会が、日本の夏を盛り上げる２大イベントだろうか。
ところで気になるのは、「まんが甲子園」「ダンス甲子園」さらに「書の甲子園」「俳句甲子園」など、甲子園球場とはあまり関係のない高校生の全国大会に関係者がやたら「甲子園」の名を冠し、それが、ある意味で大会の権威を示す言葉としても使われていることである。
高校球児が、全国大会の行われる球場にあこがれて「甲子園を目指す」というのは自然なことである。しかし、まんがの上手な高校生が甲子園を目指すわけではない。俳句を詠む高校生も、正岡子規や高浜虚子の出身地である松山での大会を目指しているのだから、「甲子園」は意味を成さない。開催地である松山市の人々に対しても失礼ではないかと私は思う。
全国の高校ラグビー選手が「花園」、吹奏楽部員が「普門館」を合言葉に頑張っているのは、それぞれの聖地を目指す心意気が感じられ、すがすがしい。
思いおもいに全国大会出場を目指す高校生たち、甲子園ではなく「○○を目指す」と言おうではないか。
もともと３月に福島県いわき市での開催が予定されていたのだが、東日本大震災で実施できず、５カ月以上遅れて秋葉原で行われたのだという。物産販売や義援金募集もあり、東北復興の一助とするということで意義も大きいが、それはそれとして、第２回からはやはりいわき市で開催したいとのこと。
そのいわき市は、日本におけるフラダンス発祥の地と言われている。
石油エネルギーの拡大によって衰退の一途をたどっていた常磐炭鉱が閉山の危機を迎えたとき、町の存亡をかけてオープンした常磐ハワイアンセンター。
地元の、いわば田舎娘たちが初めてのフラダンスに取り組む姿を描いた映画『フラガール』は大成功をおさめ、いわき市はその名を全国に知られることになった。
センター開設当時の地名「常磐市」が「い・わ・き」という意味の解らぬ平仮名になり、施設の名も「スパリゾート・ハワイアンズ」などという温かみに欠ける名に変わってしまったが、「フラガール」というなんとも野暮ったい呼び方に、ほのぼのとした情感を抱く人は多かろう。
だから、そのいわき市に全国の高校生たちが集い、フラダンスを踊るという企画はまことに結構だと思う。
さて、その折角の大会をなぜ「甲子園」というのか。
全国の高校球児は「甲子園」を合言葉に、厳しい練習を続けている。それは全国高等学校野球選手権大会が甲子園球場で行われるからであり、文字通り「甲子園に行く」のが夢だからである。
それならば、全国の高校生が日本におけるフラダンス発祥の地で技を競うというのなら、「フラガールズ常磐大会」とでも言うのが理屈に合っているのではないか。「フラガールズいわき」でもいいし、「フラガールズ湯本」でもいい。いわき市にもフラダンスにも何の関係もない西宮市の野球場の名では、全国から福島への思いが募らない。
全国の高校生たちが「いわき」を合言葉に練習を続け、いわきを目指し、いわきに集う。それでこそフラガールズ発祥の地というステータスが生き、「いわき市」が全国フラガールたちの“目標”の地として輝くことになろうというものではないか。
むろん、私とて「甲子園」という言葉が「全国大会」という意味で使われている風潮を知らぬわけではない。前々から「ダンス甲子園」だの「まんが甲子園」だのという言い方があることも知っている。それどころか、今回改めてインターネットで調べてみると、プラモデル甲子園だとかケータイ甲子園だとかいったものも含め、ざっと２０数件の「○○甲子園」が出てきた。
これはとりもなおさず、どの大会企画者も、大会の由来やアイデンティティーよりも甲子園の知名度にあやかろうというさもしい根性しか持っていないということで、情けない限りである。
実は私がこのようなことを言うのは今回が初めてではない。
昨年８月に朝日新聞の「声」欄に投稿して幸い掲載された一文がそれで、私としては自説が有力紙で紹介されたことにまんざらでもない気分を味わっていた。
しかし、わずか６００字の拙文に目を止めてくれる人は少ないし、まして賛同して声を上げてくれる人は皆無だったのであろう。その後も「○○甲子園」という文言は巷に溢れ続けている。
そこへもってきて今回の「フラガールズ甲子園」。
ブルータス、お前もか！ の感は拭えない。
福島には福島にしかない良さがある。私も何度も行って、福島のほのぼのとした風土に強く惹かれている。
ここはひとつ、甲子園などという７００キロも離れた野球場の名前などに頼らないで、「福島」「いわき」を前面に押し出した誇りある名称での大会に育ててもらいたものだと思うがどうだろうか。
付：平成２２年８月２０日朝日新聞「声」欄
高校野球と花火大会が、日本の夏を盛り上げる２大イベントだろうか。
ところで気になるのは、「まんが甲子園」「ダンス甲子園」さらに「書の甲子園」「俳句甲子園」など、甲子園球場とはあまり関係のない高校生の全国大会に関係者がやたら「甲子園」の名を冠し、それが、ある意味で大会の権威を示す言葉としても使われていることである。
高校球児が、全国大会の行われる球場にあこがれて「甲子園を目指す」というのは自然なことである。しかし、まんがの上手な高校生が甲子園を目指すわけではない。俳句を詠む高校生も、正岡子規や高浜虚子の出身地である松山での大会を目指しているのだから、「甲子園」は意味を成さない。開催地である松山市の人々に対しても失礼ではないかと私は思う。
全国の高校ラグビー選手が「花園」、吹奏楽部員が「普門館」を合言葉に頑張っているのは、それぞれの聖地を目指す心意気が感じられ、すがすがしい。
思いおもいに全国大会出場を目指す高校生たち、甲子園ではなく「○○を目指す」と言おうではないか。
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