雪犬ホー


 盛岡から田沢湖線で西へ15キロほど下りますと、岩手山、駒ケ岳などにかこまれた盆地に、雫石という、人口2万ほどの小さな町があります。
 むかし秋田街道の宿場町としてにぎわったこともあるこの町は、今は農林業を中心に、養蚕や牧畜によって生計をたてています。
 ちかくには繋や鴬宿などの温泉がありますし、北西には国立公園の八幡平も控えていますので、ひょっとすると、将来は観光地として発展するかもしれません。
 小さな、町ともいえぬこの町には、それでも盛岡から秋田へと抜ける国道46号線が通っており、その国道の南側に接して、これも小さな、雫石小学校があります。
 そして、この小学校とちょうど国道をはさんで反対側の栗の木の林の中に、1人の少年が住んでいました。少年は名前をサクといって、道を隔てた小学校の4年生です。

 少年にこのサクという女の子のような名前をつけたお父さんは、営林署の技師で、その頃は毎日、町から北に10キロほど離れた篠ケ森に通って、杉の木の伐採にあたっていました。
 お母さんは、家事の切りもりの合間に山羊の世話をし、ときどきその乳を盛岡の町へ売りに行っては、そのお金で帰りに何か買ってくるのですが、ときにはその風呂敷包みの中に、少年の好きなお菓子や、学用品などがはいっていることもあります。
 そんなとき、少年はとても嬉しくなって、ふだんはちっとも勉強などしないくせに、急に勉強家になってしまうのです。

 そんな少年の住むこの町では、冬になると雪が真っ白に降り積もって、人の行き来もとだえがちになり、学校もしかたなく休みになることが多くなります。
 子供たちはそれを雪休みと呼んでいましたが、そんな雪休みのある日のことです。
 少年は学校が近いものですから、朝から家を出て、校庭で1人、雪だるまを作って遊んでいました。
 と、どこからか、クーン、クーンと、悲しそうな犬の鳴き声が聞こえるではありませんか。
 少年は不思議に思って、声のするあたりを探してみました。すると、校舎の裏手の雪の上に、小さな小さな子犬が、かわいそうに、背を丸めるようにして震えているのです。
 きっと誰かに捨てられたのに違いありません。見れば、お腹が空いているのでしょう、少年が近づいても、心細げに少年の顔を見上げるばかりで、逃げるでもなければ甘えるでもなく、じっとうずくまって震えているのです。
「ぼーぼー、どした? もじょやな・・・。こっちゃこ。さみいべや」
 少年はそう言いながら、そっと子犬を抱き上げました。
 その日の夕方、少年はいろりの火に手をかざしながら、お父さんとお母さんに昼間の子犬のことを話していました。あの子犬を自分の家で飼ってやりたいと思って、お母さんにねだっているのです。
「ほんにめんこいんだってば。茶色でさ、子犬んくせん耳たでてさ。きがねこたねえよ。秋田犬じゃねえが。いたずらだってしねえし、子犬だってば、飯だっていっぺかせるごとねえよ」
 少年は一生懸命です。でもお母さんはなかなかウンと言ってくれません。お母さんにしてみれば、今飼っている山羊2頭だけでも、世話が大変なのです。
 それでも少年があまり熱心なものですから、とうとう横で聞いていたお父さんの方が根負けしたのでしょうか、
「まあいいべよ。犬っこぐれえ、サクがかでるべさ」
と言ってくれました。
 さあ、少年は大喜びです。ありがとうも言わず、お母さんの返事も待たず、食べかけのご飯をそのままにして外に飛び出しました。
 学校に行きますと、もう日もとっぷり暮れていましたが、わずかに残った雪明かりの中で、子犬はさっきと同じ場所に、やはりさっきと同じように、背を丸めてうずくまっていました。
 今はもう、声を出す力もないのでしょう、ただ弱々しく少年を見上げては、震えているばかりです。

 少年は犬を家につれて帰ると、さっそく、困惑顔のお母さんにねだって、山羊の乳を飲ませてみました。子犬はまるで気違いのように尻尾を振り立てて、ピチャピチャと音をたてながら、みるみるうちにお皿に入れた乳を飲み干してしまうと、ピンと立った耳をさらに反らせて、
「ワン!」
とひと声、妙におとなびた泣き声をたてました。
「ね、かちゃん、めんこいべ。おれが世話すっから。名前はなんにすんべ。ポチじゃ面白ぐねえし・・・マルじゃつまんねえし・・・。そだ! ホーがいい、ホーって名前にすんべ」
 お父さんもお母さんも、ホーなんて名前は聞いたことがないと言って笑いましたが、少年はもうすっかりこの名前が気に入ってしまったものですから、お父さんの言葉などまるで耳にはいらず、とうとう子犬はホーというおかしな名前をつけられてしまいました。

 さて、それからというものは、少年はもう、ホーがいなくては夜も日も明けぬありさまで、学校へ行くときと寝るときのほかは、いつも子犬と一緒です。
 それも、はじめは大騒ぎをして一緒に寝たのですが、さっそくその晩に子犬がふとんの中でそそうをしたものですから、こればかりはお父さんの大反対を受けて、しかたなく別々に寝ているのです。
 
 やがて、この雫石にも遅い春がおとずれ、木々の枝から重い雪がバサッ、バサッと落ち始めるころになりますと、雪どけの道などはぬかるんで、きたなくなってきましたが、少年と子犬は相変わらず、残雪の中を泥んこになって駆け回っています。
 ホーは、「秋田犬じゃねえか」と言った少年の期待に反して本当は雑種の犬でしたが、その利口なことは驚くばかりで、新しい芸も次々と覚えてしまいます。
 それに、毎日走り回っているせいでしょうか、体もどんどん大きくなって、春から夏に移るころになりますと、少年が棒きれを力いっぱい遠くに投げて、
「ホー、取ってこ」
と言えば、本当に矢のような速さでとんで行って、ちゃんとその棒きれを取ってくるようにもなりました。

 短い夏が過ぎ、秋がきますと、早くも駒ケ岳から木枯らしが吹き下ろし、東北はまた雪に閉ざされます。
 そしてまた、ぼつぼつ学校が雪休みになるころです。
 雫石小学校では、理科の勉強をかねて鶏を4羽飼っていたのですが、雪休みが多くなっては毎日世話をすることができませんので、冬の間だけ、この鶏を生徒の家に預けることになり、サク少年の家がその仕事を頼まれました。
 今では5年生になっている少年は、相変わらず勉強もせず、学校の成績も良くないのですが、どういうものか、生き物の世話が上手でしたし、なによりも、家が学校の真向かいにあったからです。
 少年はさっそく、物置小屋の軒下に金網を張って、鶏小屋を作りました。金網を支える柱は、さわると動くくらいで、なんだか頼りない鶏小屋です。
 でも、少年は一生懸命に世話をしました。鶏の元気がないときには、何時間も小屋の前に坐っているばかりか、ときには自分まで中に入ってしまうほどの打ち込みようです。
 ですから、たまに1個か2個、卵が産んであったりしますと、もう嬉しくて嬉しくて、大騒ぎです。
 そんな少年の気持がわかるのでしょうか、ホーまでがこの鶏を可愛がっているらしく、金網の外から、
「ワン!」
と大きな声を出したりします。
 すると鶏は慣れないものですから、ホーがこわいとみえて、羽根をバタバタさせながら、狭い鶏小屋の中を逃げ回ったりします。
 お父さんもお母さんも、少年の勉強はとっくに諦めてしまったらしく、このごろでは、少年とホーと鶏とを、ニコニコしながら見比べているばかりです。

 ところが、ある夜のことです。
 もう間もなく夜が明けようとするころになって、鶏たちが急に落ち着かなくなりました。
 どこから来たのでしょう、子牛ほどもあろうかと思われる大きな黒犬がのっそりと近づいてきたと思うと、じっと鶏小屋の様子をうかがっているのです。鶏たちは、それぞれ首を高く伸ばして、コッ、コッと、不安そうに歩き始めました。
 と、突然、黒犬が猛然と金網ごしに鶏に飛びかかりました。その勢いはすさまじいもので、細い柱で支えたきゃしゃな鶏小屋やひとたまりもなく壊れてしまいました。
 それはまるで、そっと重ねた積み木を崩すような、あっけないほどの瞬間でしたが、そのあとの黒犬の、憎たらしいほどに落ち着きはらった様子は、いかにも不気味で、なんだか慣れた殺し屋のような感じさえします。
 鶏たちは、無残に倒された小屋のすきまから、転げるように外に飛び出しました。そしてバタバタと逃げまどったのですが、悲しいことに、鶏と犬とでは足の速さが違いますから、かわいそうに、逃げ遅れたいちばん小さな鶏は、あっという間に、この大きな黒犬にかみ殺されてしまいました。
 黒犬は、鶏の動かなくなったのを見ると、もうあとは用がないといった様子で、その鶏を口にくわえ、来たときと同じように、のっそりと歩き出しました。
 そのときです。物かげから何やら褐色のかたまりが飛び出したかと思うと、ひくいうなり声をあげながら真一文字におどって、そのまま黒犬のわき腹に、つきささるようにぶつかりました。あまりの勢いに、さすがの黒犬も一度はどっと横倒しになったほどです。
 もちろん、不意をつかれて倒れたとはいえ、子牛ほどもあるその黒犬がそのままひるむ筈はなく、口にした鶏を放り出すと、すばやく立ち上がり、体勢を立て直そうとします。
 しかし、褐色のかたまりは少しも攻撃をゆるめることなく、そのまま黒犬に組みついてゆきます。
 しばらくは、どちらがどちらともわからないほどに激しくぶつかり合っていましたが、不意を襲われ、しかも一瞬の休みもなく攻め立てられては、さすがの黒犬も力を出し切れません。とうとうそのまま、尻尾を巻いて逃げ出してしまいました。

 あとには、今では立派に成長したホーが、息をはずませ、体をこきざみに震わせながら立っています。
 してみるとホーは、鶏小屋が襲われたのを知って、無我夢中で飛び出し、自分の倍もある黒犬にぶつかっていったのに違いありません。
 見れば、耳の付け根や肩口には血がにじんでいるようです。きっと、もみ合っているうちに黒犬の牙によって傷つけられたのでしょう。

 ホーは、しばらく黒犬の逃げた方をにらんでいましたが、やがて思い直したように振り返ると、今はもうぐったりと動かない鶏に鼻づらをつけて匂いを嗅いでいるようでしたが、死んでしまったその鶏を、もとの場所に返そうとでも思ったのでしょうか、そっと口にくわえると、鶏小屋の方へ歩き出しました。
 しかし、なんという巡り合わせでしょう。そのときになって、物音を聞きつけたサク少年が、寝巻の上に綿入れを羽織って庭に出てきたのです。
 少年はホーを一目見ると、愕然としてそこに立ちすくみました。ホーは少年があれほど大切にした鶏をくわえて立っており、しかもその口もとには、どうやら鶏のものらしい血さえにじんでいるのです。
「ホーが・・・鶏を・・・」

少年の胸に、痛みに似た感情がよぎり、たちまちそれは抑えようのない怒りとなって広がってきました。

 学校から預かった鶏を、あれほど大切な鶏を、こともあろうに、自分の最も親しい友であるはずのホーが、誰よりも信じていたホーが殺したとは・・・。
 少年はそう思うと、突然はげしい怒りに包まれました。ホーの口から、死んだ鶏をもぎ取るようにしてひったくると、ものも言わず、いきなりホーの顔のあたりを力まかせに殴りつけました。
 これまで一度も殴られたことなどなかったホーは、それに驚いたのでしょうか、それとも黒犬と戦った興奮がまだ残っていたのでしょうか、珍しく少年に向かって身構えると、ひと声、低いうなり声をあげました。
 少年はそれを見るとますますいきり立ち、そばに落ちていた薪を手にすると、
「おんつぁ!」

と叫びながら、ホーの腰のあたりをいやというほど打ちすえました。
 成長したとはいっても、ホーはまだ1年そこそこの雑種犬です。薪で殴られてはひとたまりもなく、「キャーン!」とひと声、悲鳴をあげてその場に倒れてしまいました。
 これにはさすがに少年も驚き、おろおろとホーの名を呼びますと、ホーはそれでもようよう顔を上げ、ついでよろよろと立ち上がりました。


 朝、少年はホーをつれて国道をずんずん歩いていました。これからホーを捨てに行くところなのです。
 少年は、ホーの倒れたことで、さすがに慌てはしたものの、なんとか立ち上がったホーを見ると、ホッとすると同時に、またどうしようもない憤りに包まれてしまったのです。

 なんといっても、最大の味方に裏切られたということが我慢できません。少年の頭には、学校の先生の怒った顔や、友達のがっかりした顔がありありと浮かんできました。どうしてもホーを許すことはできません。
 それなのに、少年から事情を聞いたお父さんは、ホーをかばってこう言いました。
「そらあ、ホー叱ったってしょうがね。あんたって、相手は理屈わかんねえ犬っこだべさ。あに、にわとりゃ代わり買ってやっちゃ。そんより、簡単に壊れっような小屋作ったサクの方にも責任があっぺ・・・」
 一人っ子で、これまで甘やかされて育った少年は、お父さんのこの言葉を聞いて、完全に腹を立ててしまいました。
 ぼくの気持なんか、お父さんもホーも分かっちゃいないんだ。こんな馬鹿犬なんて捨てちまえ。そう思った少年は、朝になって、お父さんには内緒でホーを連れ出し、よろめくホーを無理やり引っ張って歩いているのです。
 ホーは、少年のいつになく険しい表情におびえたものか、なかなか言うことを聞こうとせず、それがまた、少年をますます怒らせてしまいます。
 と、少年の目に、1台のトラックが道端に停まっているのが入りました。おおかた、小岩井農場から秋田方面へ牛乳を運ぶ途中でしょう。近くで用を足していたらしい運転手が、今しも運転席のドアに手をかけて、乗り込もうとしています。
「おじさん」と少年はその運転手に声をかけました。
「この犬なげたいんだけっど、近くになげたんじゃ、すぐけえって来ちゃうから、こんトラックに載せて遠ぐさ連れてってくんねか?どこさ遠くでなげてくれればいいっちゃ」
 人間の心というものは、ときとして自分にも信じられないほど冷酷になったりするものです。ましてこの日の少年は、大切な鶏を失って気持がたかぶっていたものですから、つい、このような残酷なことを言ってしまったのです。
「あいよ」
 運転手はそう、こともなげに答えると、無造作にホーを抱え上げ、ポンと荷台に放り上げました。事態を察したホーが悲しげな声をあげ、少年の胸にチラッと後悔に似たものが走るより早く、トラックはもう、泥水を跳ねとばしながら、小さくなってゆきます。

 ホーは、揺れる荷台の上で何度も横倒しになり、積んである牛乳の缶にぶつかりました。薪で打たれた腰に、どうしても力がはいらないのです。
 いったい、どのくらい走ったでしょう。道は右に左に大きく曲がりくねり、片側はかなり深い谷になっていますが、反対の山側には、まっすぐで癖のない秋田杉が、うっそうと生い茂っています。
 ときどき、右手の山あい遠くに光って見える水は、水深が日本一深いという田沢湖でしょうか。
 ホーは何度も荷台からとび降りようとしましたが、スピードと揺れのために、なかなか降りることができません。もう昼を過ぎた時分だというのに、トラックはいっこうに止まろうとしないのです。
 2時過ぎ、ようやくトラックは生保内線の角館の駅前に着きました。牛乳はここから、奥羽本線を通って秋田に運ばれるのでしょう。
 ホーは、車が止まりかけると、待ちかねたようにとび降りました。そしてぶざまにひっくり返ると、よろよろと立ち上がり、もと来た方へ駆け出しました。
 家へ帰ろうというのでしょうか。
 よく確かめもしないで自分を誤解し、その上、薪で殴りつけさえした少年の家に、これから帰ろうというのでしょうか。
 それに、角館といえば、少年の住む雫石までは50キロ以上の距離にあるのです。立ち上がるのさえやっとというホーの体で、はたして歩ききれるものでしょうか。
 でも、ホーは駆けました。まっすぐに前を向き、首に綱をつけたまま、よろけながら、ときには転びさえしながら、駆け続けました。
 それが近道とでも思うのでしょうか、ときどき道から外れ、くま笹を分け、沢の水をはね、息を荒げながら、ひたすら駆けて行きます。
 しかし、いつしかあたりは闇に包まれ、ついには、どうやら雪さえ降ってきたようです。

 翌朝、雫石を望む橋場の丘には、雪が真っ白に降り積もっていました。
 夜どおし降り続いた雪が、短い草々を覆い隠し、人の踏み跡を消し、すっぽりと丘全体を化粧しているのです。
 その丘に今、小さな動物が這い上がって行きます。
 ずぶ濡れになり、雪に泥の跡をつけながら這ってゆくその動物は、なんと、あのホーの変わり果てた姿ではありませんか。
 してみればホーは、あの傷ついて体で、夜どおし駆け続け、雪の中を、仙岩峠を乗りきってきたのでしょうか。
 それにしても、なんという変わりようでしょう。一晩ですっかりやつれ、目は血走り、泥にまみれ、かろうじて立っている耳だけが、やっとホーの面影を残しているばかりです。
 そのホーは、今ようよう丘の頂きにたどりつき、その目には、はるか前方に、あの懐かしい雫石の町並みがはっきりと映りました。
 そのときです。
 ダーン!
という鋭い音がしたかと思うと、ホーの体がもんどりうって転がりました。真っ白な雪がみるみる赤く染まってゆきます。

 そこへ勢い込んでやってきた男は、腰に毛皮などつけているところを見ると、土地の猟師ででもありましょうか、手にした鉄砲の筒先からはまだ、かすかに煙が立っているようです。
「ちぇっ! 犬か・・・」
 男はいまいましそうに、そうつぶやくと、雪を蹴散らしながら、立ち去りました。

 その朝、少年の家では大騒ぎが持ち上がっていました。夜明けにまた鶏小屋が襲われ、前の日に臨時に修理した小屋が見るかげもなく壊されてしまったのです。
 そればかりか、今度は、鶏をくわえて逃げて行くあの黒犬を、物音を聞いて飛び出したお父さんがはっきりと見たのです。
 少年には今、やっと、本当のことがわかりました。
 すべてが、少年の早合点から起こったことなのです。もの言えぬ相手を一方的に判断し、責め続けた少年のわがままから起こったことなのです。
 もしあのとき少年が、ホーの耳の付け根についた傷に気づいていれば、ホーが何者かと戦ったことが判ったでしょう。
 もしあのとき少年が、ホーよりは大きい黒犬の足跡に気づいていれば、ホーの仕業でないことが判ったでしょう。
 少年は、とりかえしのつかない後悔に襲われると、居ても立ってもいられず、家を飛び出しました。
「ホー!」
 少年は叫びながら、ホーの連れ去られた秋田の方角に向かって走って行きました。
「ホー! ホー!」
 少年は泣きながら、雪の中を、どこまでも駆けて行きました。

 そのころ、冷たくなったホーの体には、ゆうべからの、真っ白な雪が、少しずつ、少しずつ、降り積もってゆきました。

                           - 終り -

大学1年のときにヒッチハイクに出かけた折り、雫石小学校に泊めてもらい、そのあと国道46号線沿いに山道を生保内まで歩きました。そのときに見た景色を思い浮かべながら書いたのがこの文章です。

トルコ軍艦エルトゥールル号遭難事件に思う この言葉、なんとかなりませんか(4)
     
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